越冬

訴えたいことが、ないんです

さよならの代わりに

親友が結婚することになった。妊娠もしている。

よかったね、おめでとう。幸せになってね。という気持ちも確かにあるが、本当のところ、寂しい。とてつもなく寂しい。

親友とはよくフラッと色々な所にでかけた。仕事の都合で、一緒に旅行に行くような遠出はできなかったけれど、彼女が運転する車でよくフラフラとあてもなく出かけていった。仕事と、家族間の問題でストレスが多い彼女が、休みが出来ると『暇か?』とメールが来た。私は暇だよと応えて、そうしてよく出かけて行った。車で、何処へ行くでもなく、ただやみくもにそこらを走り回っていた。車を走らせながら、仕事の事や家族の事をポツポツと話していた。何処かへ行きたいのに、何処へ行けばいいのか分からない。でもじっとしていることも出来なくて、私を乗せて彼女は夜の街をドライブしていた。

暇が出来れば時々会っていた私達の会う頻度がグッと下がったのは去年からだった。休みが不定期な彼女からの誘いを待つ形で、私達はいつも会っていた。久々に会って話を聞くと、お見合いをした相手と上手くいき、その人とデートを順調に重ねているようだった。そう聞いて、なんとなく、彼女が今までよりも纏っている雰囲気が女らしく、綺麗になったような気がした。良い恋愛をしているのだと思った。

それからは、もっと会う頻度が下がっていった。激務でもあった彼女は、休日も持ち帰りの仕事が多く、休みが休みではなかった。そして何とか確保した本当の休みを、彼と会うことに使ってしまうと、もう私と会う時間までは残っていないのだった。

仕方がないことだと思う。私は遅まきながら、ただでさえ忙しい彼女が結婚するということは、こういうことなのだと気がつき、少し寂しい思いをしていた。彼女が結婚してしまえば、旦那さんの手前、より会いにくくなるだろうことは想像出来るので、この付き合いが上手くいくことを願いながらみ、自分の中でこんなにも身近だった彼女が突然ぽっかりいなくなってしまうことにまだ気持ちの整理をつけられないでいた。他にも友人はいるし、結婚して子供もいる人はいるのだが、彼女ほど忙しい人はいなかったし、彼女ほど近い付き合いをしてきた人もいなかった。

ある日、彼女から、妊娠したかも、というメールが来た。結婚することは決まっていたが、はっきりといつ、とは決まっていなかったと思う。職場にも、まだ話をしていなかった筈だった。でも子供が出来てしまった。私は、とにかく、自分の体と子供のことを最優先に考えて、と返信した。職場のことは、最悪放り投げてでも、自分の体と子供、自分の人生のことを大事にして、と。

そして、彼女は大急ぎで身内だけの結婚式を決めて、結納の日取りを決めて、職場にも報告をした。つわりが酷くて大変らしい。激務の中、無理をしなければならない状況で体調が心配だが、無事に乗り切ってくれることを願うしかない。大変だけれど、一度に終わって良かったと、後から思えることを願うしかない。

でも、子供が出来たから、ただ結婚しただけの時とは違って、もう二人で出かけることは無くなるんだ。

そう思い当たってから、寂しさが一気に襲ってきた。もっとフランクな付き合いだと思っていたのに。私と彼女が、どれだけいつもの場所、いつものコース、いつもの話をしているかを思い出して、それら全てがもう繰り返されることはないのだと気がついて、本当に寂しくなった。彼女はこれから待ち受ける新生活に精一杯で、そんな寂しさなど感じている暇は無いし、私も寂しいなどと彼女に言うつもりもない。そんなことを伝える付き合い方でもなかった。でも、私達は長い付き合いで、彼女も私も、なかなか言えない家族の事情や、私達だけの思い出が沢山あった。彼女が、新しい家族を作り、幸せになることを素直に願うために、この寂しさをここに吐き出しておく。

いつか行こうねと約束していた場所は、鎌倉と奈良。いつか行こうね。私は忘れないよ。幸せになってね。