越冬

訴えたいことが、ないんです

読んだ本

備忘録的に。

 

魔の山トーマス・マン

去年の十月末からかかって、今年に入ってようやく読み終えたもの。何度挫けそうになったことか。

ナフタとセテムブリーニの論争はほぼ理解せぬまま文字だけを追っていた。ハンス・カストルプは結局、セテムブリーニ始め、沢山の人に色々影響を及ぼされたかと思いきや、全然影響を受けぬまま、のんべんだらりと山の上で療養生活を続けた後、突如起こった第一次世界大戦に突然愛国心を突き動かされて、国に戻って兵役する。教育とは。

 

『郊外へ』堀江敏幸

エッセイというから実体験なのかと思ったら、小説であった。創作であった。下地となるフランス文学なりフランス映画の素養が無いのに読んでしまったせいで、あんまり理解できなかった。一般的にイメージされがちな、おしゃれで美しいフランスから離れた、寂しげで、寒々しい空気を感じさせるフランス郊外というものの存在を知れたことは良かった。

 

『うつくしく、やさしく、おろかなり』杉浦日向子

江戸を愛する杉浦さん最後のエッセイ集。江戸を愛する杉浦さんの、江戸愛に溢れた一冊。江戸の人の精神性。粋(いき)と粋(すい)の違いなんかが分かりやすく書かれていて面白い。江戸っ子は、ダメな恋人(愛人だったかな)のようだという杉浦さんの説明がまさにという感じ。今の日本人とは違う価値観。でも、折々に思い出したい。

 

『誠実な詐欺師』トーベ・ヤンソン

ムーミンの作者による、ムーミンを読んでいると時々あるひやっとさせられる文章をめいっぱい味わせられる作品。アンナとカトリのやり取りが恐ろしすぎて、読み続けるのに精神力を必要とした。カトリは、アンナから何もちょろまかさずに、お金を巻き上げるというつもりだったのかもしれないが、アンナの精神を一旦破壊している。カトリはアンナと関わったことで、弟と犬を結果的に失うことになる。アンナは再生し、カトリを赦し、今までの自分を乗り越えた新しい一歩を踏み出す。アンナの言葉はカトリに届いただろうか。

 

エドウィン・マルハウス』スティーヴン・ミルハウザー

主人公の少年による、ある少年作家の伝記、という体裁を取った小説。と書くと何ともややこしい。天才型のエドウィンと、秀才型のジェフリー、エドウィンの才能に惚れ込み、彼の友人として、しかし観察者として隣に佇むジェフリーが恐ろしい。エドウィンと遊びに出かけるジェフリーの描写は美しい。エドウィンの最後は、二人の関係らしいという感じもした。何事にも自覚的なジェフリーと、気まぐれで放埓なエドウィンだから。

 

『紅茶と薔薇の日々』森茉莉

森茉莉のエッセイは、何度読んでも、この人とは合わないな、と思いながら読み、そしてまた手に取ってしまう。思い込みが激しいというか、基準が何をおいても自分!!だから、変な発言も多いんだよね。この人は。しかし、幼少期から晩年に至るまで、確固たる美意識を持ち続け、美の世界を愛した森茉莉は大した人だと思う。こんな生き方、普通の人間には出来ないものね。