越冬

訴えたいことが、ないんです

美容院に行く

美容院に行ってきた。
また髪をちょいちょいと短くされてきた。前回かなり髪色を明るくしたところ「えらい明るいな」と突っ込みが入ったので、やはり社会人の髪色ではなかったかと反省し今回は暗めにしてハイライトを入れた。
入れた、とか書くと私が拘りを持ってあれこれしているみたいだが、例によって担当のwtnbさんに「前のは明るすぎたから暗めで」と言って、後はwtnbさんがうまいことやるんである。
だいたい、毎回「今日はどうしますか?」とwtnbさんは聞くが、私は「髪の毛が伸びてきたんで」と言わずもがなの事を言い、「適当にやってください」で丸投げして終わるので、聞かなくても良さそうなものである。
wtnbさんは丸投げすると上手いことやってくれるので、市内の髪型を一秒たりとも考えたくないのに程々に上手いことやって欲しい層は行くといいと思う。wtnbさんは見た感じ軽薄そうなのに職人気質なのだ。

帰りにパンを買ってこいと言われていたので、せっかくなので円頓寺にある芒種まで歩いて行く。
円頓寺・四間道は、金はないけど時間だけは大量にあった大学生の頃からよく徘徊していた。昔は寂れた商店街だったが、四間道が美観地区になり、円頓寺が再開発されてからはお洒落な店と昔ながらのお店が入り交じっている。
昔ながらのお店の方は、『30代以上のおしゃれが好きな人のお店』『完全予約制』『30代以上のおしゃれを愛する人の店です。ご了承下さい』という張り紙が張り出された洋服屋さんとか、未だにクリスマスツリーが飾られ、隣にはゴジラ張りぼてが配置され、二階の出窓からは馬鹿でかいユニコーンのぬいぐるみがこちらを見下ろしている何の店なのかさえ分からない店とか。
私が昔馴染んでいたのはこちらなので、これらの店にはこれからも頑張って頂きたい。
芒種はそんな円頓寺商店街の外れにある、夫婦でやっている小さいパン屋さんである。本当に小さいパン屋で、小ぶりなショーケースに入る程しかパンは置いてないし、三人客がいるともう狭い程しかスペースもない。小さすぎて何となく入りにくい。
前々から存在は気になっていたが、ある時思いきって入って買ってみたところ、小麦の味がとても良い美味しいパン屋だったのだ。
それからしばしば行きたいと思っていたのだが、円頓寺名古屋駅から距離がある上に、6時閉店という健康的な営業時間であるために、平日は買いたくても買えないのだった。
今日はようやく二回目の購入である。持ち帰る時にもう、小麦の良い匂いがしている。家に着いてさっそく食べてみると、やっぱり小麦の美味しい味がする。
美味しいなあ。近所に来ないかなあ。美容院もわざわざ原まで行くのは遠いなあ。近所に来ないかなあ。幸せは遠きにありて思うものなのかなあ。そういうことじゃないような気もするなあ。

春遠からじ

今日は暖かかかった。

暑さにも寒さにも弱い意思軟弱な私には、こうして暖かい空気を感じると嬉しくなる。今日は春の土の匂いがした。

冬来りなば春遠からじというが、実際の春はまだまだ先な上に、寒い、あったかい、寒い、あったかいを繰り返して散々焦らした上に、春の風はびよーびよーと強いのだ。それが春だ。そして私は花粉症だ。それが春だ。

 

春といえば、昔、祖父母と一緒によくサカマチという所に行った。山の方なので、坂町と書くのかもしれない。

祖父は魚を釣りに。祖母は土筆を摘みに。私は祖母に付いて土筆をぞんざいに摘んでいたが、祖母はじっくり丹念に土手に生えている土筆という土筆を摘みまくっていた。執念の土筆摘みだった。

家に帰ると新聞紙を広げて、その上でこれまた丹念に土筆のはかまを取った。そうしてビニール袋一杯に土筆を貰って家に持って帰り、卵とじにして食べた。穂先がきちんと閉じたままのものは苦味があって美味しいのだ。春の味の思い出はこの土筆の卵とじの味だ。

あの土手は犬のうんことかおしっことか大丈夫だったんだろうかという一抹の不安と共に、祖父母の懐かしい思い出として思い出される。